ゴーン氏の報酬について、金融商品取引法上、その他問題になりそうな点を考察してみたいと思います。

 まずは、報酬の会計処理について、問題はなかったかを検討してみたいと思います。
 各期約20億円の報酬が確定していたとすれば、約20億円を会計上、販売費及び一般管理費の役員報酬として処理する必要があります。
 この点については報道等はありませんし、財務諸表で販売費及び一般管理費の明細は開示されていませんが、ゴーン氏は残りの10億は未確定と主張していることから考えると、費用処理したのは各期約10億円で、残りの約10億円は何ら会計処理されていなかった可能性が高いと思います。
 一方で、監査法人が、報酬等の開示について指摘していたとの報道もありますので、会計上は約20億円全額を費用処理し、報酬等の開示では約10億円の記載にとどめていたため、不整合を指摘されたという可能性もあります。

 まず、ここでは、各期約10億円を費用処理し、残額の約10億円は会計上全く処理していなかった場合を考えます。
 そうすると、各期約10億円は、虚偽記載があったことになります。
 しかし、罰則は「重要な」虚偽記載に対して科されるものであるため、各期の約10億円が有価証券報告書を見た投資家にとって重要であったかが問題となります。
 
 日産の有価証券報告書によれば、各期の(親会社株主に帰属する)当期純利益又は純損失は以下の通りでした。
         単体      連結
2011年3月期 △24,018百万円 319,221百万円   
2012年3月期 △74,826百万円 341,433百万円
2013年3月期  74,847百万円 341,117百万円
2014年3月期  425,494百万円 389,034百万円
2015年3月期  491,570百万円 457,574百万円
2016年3月期  251,009百万円 523,841百万円
2017年3月期  585,995百万円 663,499百万円
2018年3月期  129,044百万円 746,892百万円
 絶対値の一番小さい2011年3月期の単体の当期純損失で考えると、10億円の虚偽記載はわずか4.16%に過ぎませんし、税効果を考えればその率はもっと小さくなります。
 そうすると、一般的には、「重要な」虚偽記載とは言えないと考えられます。

 それでは、各期約20億円を費用処理していた場合はどうでしょうか。
 約20億円の報酬が確定していたのであれば、未払いの部分を未払金として処理すればよいだけで、財務諸表に何ら虚偽記載はありません。あとは、報酬等の記載が虚偽記載となるので、それが重要であれば、罰則の対象となるだけです。

 では、可能性は高いとは言えませんが、確定したのは約10億円で、残りの約10億円は未確定だけど、費用処理したという場合はどうでしょうか。
 まず、未確定でも会計上、費用処理できるでしょうか。
 会計上、まず考えられるのは、引当金でしょう。引当金の計上要件としては、企業会計原則注解18に規定があり、要件は以下の通りです。
(1)将来の特定の費用又は損失であること
(2)費用又は損失が当期以前の事象に起因して発生するものであること
(3)発生の可能性が高いこと
(4)金額を合理的に見積ることができること
 ゴーン氏の未払報酬については、各期の職務執行の対価としての支払であれば、今回の件がなければ支払う可能性が高いと言えるので、いずれの要件も満たしていると思われます。したがって、引当金計上というのは、あり得る選択かもしれません。なお、退職後の競業避止の対価、コンサル報酬として(実質的にも)支払うのであれば、(2)を満たさないので、引当計上はできません。
 また、会計上、通常未払金は確定債務ですが、見積もり計上することもあり得ますので、引当金的なものとして未払金計上していたかもしれません。
 
 そうすると、今度は報酬等の記載との整合性が問題となります。
 基本的には整合させるものだとは思いますが、かなり無理な主張をするとすれば、会計上は、確定していないが支払い可能性が高いものを含め、費用処理し、報酬等の記載は、確定しているもののみが求められていると考え、確定分の各期約10億円のみを記載したという主張が考えられます。
 最終的な判断としては、裁判所ですが、これならもしかするとすべて適法といえる可能性はあるのかもしれません。かなり無理がありますが。
 
 ゴーン氏は、金融庁、弁護士、会計士に書面で確認し、適正に処理したと主張しているようですので、もしかするとこのような主張なのかもしれません。
 単純に考えれば、未確定なので、会計処理もせず、報酬等の欄にも記載していないのだと思いますが、一部報道で、監査法人が報酬等の欄の記載について指摘していたというものがあり、監査法人は、秘書室の金庫に眠っていた書類を見られたとは思えないので、考えられる範囲で妄想してみました。