ゴーン氏の当初の逮捕の被疑事実、起訴された公訴事実は、有価証券報告書の取締役報酬の虚偽記載でした。

 1億円以上の報酬等を得ている役員について、報酬が個別開示が義務化されたのは、2010年からです。
 具体的な開示内容は、企業内容等の開示に関する内閣府令第二号様式・記載上の注意(57)a(d)に規定されています。
 開示内容としては、役員ごとの提出会社と連結子会社の役員報酬等(連結報酬等)の種類別の額等を開示することとなっています。
 ここでの報酬等とは、報酬、賞与その他その職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、当事業年度に係るもの及び当事業年度において受け、又は受ける見込額が明らかとなったものをいうものとされています。

 一連の報道によれば、ゴーン氏は、被疑事実について、報酬は未確定であること、退職後にはコンサルティング報酬など他の名目で貰う予定のものであったことなどを主張して、否認しているようです。

 内閣府令の文言に則して見てみると、「受ける見込額が明らかになった」かどうか、「職務執行の対価」か否かが判断の分かれ目となりそうです。

 最近の報道を見ていると、確定した報酬約20億円のうち、約10億円は受領済みで、残額を退職後に貰うという書面があるようです。この書面が有効であれば、「受ける見込額」も明らかですし、コンサル報酬などではなく「職務執行の対価」であることも明らかでしょう。

 そうすると、この書面が有効なものかが問題になってきます。
 ゴーン氏は、日産の内部規程に則って作成したものではなく、単なる希望額で、書面は有効ではないと主張しているようです。
 日産の有価証券報告書によれば、「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する。 」とされています。
 日産の代表取締役は、2011年3月期から2013年3月期は、ゴーン氏、志賀氏、西川氏、2014年3月期は、ゴーン氏、志賀氏、西川氏、ケリー氏、2015年3月期からは、ゴーン氏、西川氏、ケリー氏となっています。
 報道によれば、ゴーン氏は、一部の代表取締役のみとしか協議しておらず、全員と協議していないので、書面は無効だと主張しているようです。
 
 まずは、会社法の条文を確認してみます。
 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し(会社法349条4項)、権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができないとされています(同条5項)。
 ゴーン氏の主張通り、一部の代表取締役と協議していないとします。そして、これを形式的に適用すれば、ゴーン氏は、報酬の決定に協議が必要だったことを知っており(悪意)、日産は、必要な協議がなかったことをゴーン氏に対抗できることになりそうです。すなわち、形式的には書面は無効とも考えられます。

 しかし、あまりにこれでは形式的すぎるような気がしますし、自ら無効と考えながら書面は作らないでしょうし、今回問題にならなければ、おそらく書面通りの金額を貰っていたでしょうから、結論として妥当でない気はします。
 この辺りは、裁判所の判断を見てみないと何とも言えません。おそらく有罪にはなるでしょうから、その理由付けを注目してみたいと思います。

 また、協議していなかった代表取締役は、おそらく志賀氏、年度によっては西川氏ということになると思われます。報道によれば、西川氏のサインのある書面もあるようなので、それが2015年3月期以前であれば、2015年3月期からは、代表取締役が逮捕されたゴーン氏、ケリー氏及び西川氏だけになるので、2015年3月期以降は、そもそも協議していなかったという主張自体が否定される可能性もあると思われます。
 
 なお、重要な虚偽記載のある有価証券報告書を提出した者については、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの併科に処せられることとされています(金融商品取引法197条1項1号)
 また、法人への両罰規定もあり、こちらは7億円以下の罰金とされています(同法207条1項1号)。
 今回も、ゴーン氏のみならず日産も法人として起訴されています。

 次回は、金融商品取引法上のその他の問題について考えてみたいと思います。