ゴーン氏が逮捕された当初、SAR(Stock Application right,株価連動報酬)の不記載が被疑事実であるといった一部の報道がありました。
 しかし、その後の報道を見ていると、逮捕の被疑事実は、支払を退職後に繰り延べた確定金銭報酬の不記載だったようです。
 そして、一部の報道によれば、ゴーン氏は逮捕の被疑事実とは別にSARを付与されていたようです。
しかし、日産の有価証券報告書には、ゴーン氏に付与されたSARの金額はいずれの年も「0」となっています。

 さて、そもそもSARとは何でしょうか。
 これは、株価に連動した報酬であり、決められた時期に株価が基準価格を超えればその差額を報酬として受け取れるといったものです。
 会社法上は、額が不確定な報酬として、具体的な算定方法を株主総会で定めることとなっています(361条1項2号)。
 上限を定め、配分を取締役会に一任できる点、配分を一定の取締役に再委任できる点は、確定金銭報酬と同様でしょう。

 日産も「株価連動型インセンティブ受領権」として、普通株式600万株相当を上限として、権利を付与できることとしています。
 具体的な内容は、取締役会が定める一定の日に、権利を付与し、一定の期間内(権利付与日から10年以内で取締役会が決めた期間)に、権利行使日の前日の市場価格が、行使価格を上回っている場合に、その差額を受領できるものです。
 行使価格は、権利付与日までの一定期間の終値の平均値に1.025以上を乗じた金額を取締役会にて決めることとなっています(ただし、権利付与日の前日の終値がその金額以下であれば前日の終値)。
また、行使条件が付されており、付与される者ごとに、一定の業績目標の達成度を取締役会で定めるとされています。

 日産では、ゴーン氏以外の取締役に対し、SARを付与しており、それらについては有価証券報告書の「役員の報酬等」の欄に記載があります。
 しかし、ゴーン氏については、いずれの年も「0」となっています。
未行使のSARについては、期末の株価を用いて算定した公正価額を会計上、費用処理しているとの記載があり、いずれの年も他の取締役の分は費用処理した金額があるため、ゴーン氏にも権利付与しているのであれば、「0」ということはあり得ません。
 仮に、期末株価が行使価格を下回っていたとしてもオプションとしてのバリューがゼロということはあり得ません。

 ただし、有価証券報告書に記載しないことと、会社法上の報酬規制とは、全く異なるものです。
 具体的に、何株分が他の取締役に付与されているかも不明ですので、ゴーン氏に付与されたとされるSARが会社法に違反するかは、残念ながらわかりません。
 仮に、ゴーン氏に付与されたSARが株主総会決議の範囲内であれば、会社法の報酬規制違反の問題は発生しません。
 一方、株主総会決議の上限を超えてしまっている場合については、罰則を含め、明文の規定がないため、確定金銭報酬の場合と同様、そもそも無効と言えるか、仮に無効と言える場合、どの部分が無効になるかなどは不明です。あとは、取締役の責任を問えそうである点も同様です。

 次回は、有価証券報告書の虚偽記載について考えたいと思います。