日産のカルロス・ゴーン氏については、有価証券報告書の役員報酬の虚偽記載について起訴されたところですが、その他にも様々な法律・会計上の問題点があります。
そこで、法律・会計上の問題点について、一つづつ基本的なところから検討してみたいと思います。

第一回目は、取締役に対する確定金銭報酬の決め方について、会社法上の規制を検討してみたいと思います。

1.確定金銭報酬の定め方
(1)会社法上の規制
 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(「報酬等」)のうち、額の確定しているものは、その額を定款または株主総会決議で定めなければならないとされています(会社法361条1項1号)。
 取締役の確定金銭報酬額を定款で定めている会社はほとんど無いですし、日産の定款にも額の定めがないので、株主総会決議で報酬等の額を定めることが必要になります。
 そして、最高裁の判例(最判昭和60年3月26日集民第144号247号)によれば、株主総会では、報酬総額を定めればよく、その具体的配分は取締役会の決定に委ねることができるとされています。
 また、取締役会が特定の取締役に配分の決定を一任することも可能という裁判例(名古屋高金沢支判昭和29年11月22日下民5巻11号1902頁)があります。

(2)日産の確定金銭報酬上限
 日産の有価証券報告書によれば、確定額金銭報酬の上限は、2008年3月期の定時株主総会で29億9000万円と定められており、今日まで変更はありませんので、上限額は29億9000万円となっています。

2.日産の取締役に対する確定金銭報酬
(1)ゴーン氏への報酬額
 一連の報道によれば、ゴーン氏は、日産の取締役報酬の配分権限を有し、2010年度から2017年度まで毎年約10億円の金銭報酬を受け取り、さらに毎年約10億円を退職後に受け取ることにしっていたようです。
 ゴーン氏は、退職後に受け取る10億円については、確定していなかったと主張しているようです。また、退職後には、報酬とは別の名目で貰うことを予定していたとの報道もあります。
 これについては、報道されている以上の情報がないので、とりあえずここでは、退職後に貰う金銭については、在職中の職務執行の対価であり、会社法で規制される確定金銭報酬にあたるものとして、話を進めることにします。

(2)日産の確定金銭報酬総額
 日産の有価証券報告書によれば、社外取締役を除く取締役に対する確定金銭報酬総額及びゴーン氏への確定金銭報酬は以下の通りです。
2011年3月期 1,675百万円(うちゴーン氏 982百万円)
2012年3月期 1,748百万円(うちゴーン氏 987百万円)
2013年3月期 1,746百万円(うちゴーン氏 988百万円)
2014年3月期 1,653百万円(うちゴーン氏 995百万円)
2015年3月期 1,459百万円(うちゴーン氏1,035百万円)
2016年3月期 1,535百万円(うちゴーン氏1,071百万円)
2017年3月期 1,836百万円(うちゴーン氏1,098百万円)
2018年3月期 1,564百万円(うちゴーン氏 735百万円)
 これらに毎年10億円(+社外取締役分最大約1億円)を加えても日産の取締役の確定金銭報酬上限2,990百万円以下となるので、問題がなさそうに見えます。
 しかし、報道によれば、2017年及び2018年3月期のゴーン氏の報酬は約2,400百万円であったとのことで、2017年3月期は約1,302百万円、2018年3月期は約1,665百万円を追加で退職後に支払を行うこととなっていたようです。
 そうすると、確定金報酬総額は、2017年3月期が約3,139百万円、2018年3月期が約3,229百万円となり、株主総会決議による上限2,990百万円を超えることとなってしまいます。

(3)上限規制違反の効果
 上限規制を超えて支払ってしまった場合の法律関係については、罰則を含め、明文の規定はありません。
 したがって、これだけで刑事責任を追及することはできません。
 また、民事上も、そもそも違反の効果として無効になるのか、無効となるとした場合に上限を超えた部分のみ無効なのか、誰のどの部分が無効になるのかなど、その効果は不明です。
 ただし、取締役に過失は認められるでしょうから、少なくとも上限を超えた分の損害賠償責任(会社法423条)は認められると思われます。
 したがって、ゴーン氏は当然として、退職後の支払約束文書にサインしていたという西川社長は、少なくとも上限を超えた額の損害賠償義務を負うものと考えられます。その他の取締役にについては、支払約束の事実を知っていれば損害賠償義務が認められるでしょうが、知らない場合は、具体的な状況によって異なってくると思われます。
 この損害賠償責任は、まずは日産が追求し、日産の追求を不満とする株主がいれば、さらに株主代表訴訟が提起されることとなるでしょう。

 なお、株主総会決議なしで支払った報酬について、事後的な株主総会決議の追認により有効になるという判例(最判平成17年2月15日集民第216号303頁)はありますが、今後、日産の株主総会において、追認するということは考えられないでしょう。

 次回は、確定金銭報酬以外の報酬について検討したいと思います。